懐かしいひと
外来に時々患者さんとして来られる「一番最初に勤めた職場の同僚」がいらっしゃいます。 同僚と呼ぶにはおこがましい、ひとまわりちょっと上の看護師さん。今はたしか、ケアマネをされているのではなかったか・・・。
技師になり12年。いまでこそ年の功を最大限に発揮して大きな顔もハッタリも大いにかましているけれど、学校を卒業してはじめて医療現場に入ったその当時は、なにもかもに戸惑うことが多く、「放射線技師」という仕事にどんなに向いてないかふさわしくないか、つきつけられる現実の数々に悩むことばかり。加えて、部署内で繰り広げられるいざこざに疲れ果て、「もう辞める」「もう無理」を歩くたびに考える1年でした。
その時のことはいまでも夢にみるほど。そしてこれもまた今の私を培う土壌ではあったのだろうけれど、精神的にものすごくしんどい職場。
そんな折、ペーペーの一年坊主の私を、ゆがみそうな気持ちや心を、背中からぎゅっと支えていてくれたのがその看護師さんの仲良しグループでした。凹むたびに声をかけてくれた総婦長さん、そして、「こんなに仕事を楽しそうにするキラキラした女性っているんだろうか」と憧れをもって見ていた事務長代理の女性もそう。背中がしゃんと伸びて、院内をイキイキと闊歩するその姿は、職種は違えど「なりたかったデキル女性のスタイル」そのものでした。
「あのひと達が見ていてくれるから頑張ろう。あのひと達にがっかりされたくないからがんばろう」そんな思いを抱かせてくれる方々の懐は、どうにもなじみきれなかった職場の中で、逃げ込むことのできた唯一の空間でもありました。
・・・結局は、体調を崩し1年少しで辞めてしまったのだけれど。
だから、外来に来ているその看護師さんのことに気付いてはいたけれど、申し訳ないような気持ちと、どう声をかけていいかわからない起伏のなか、いつもほんのすこしの会釈だけで話したい懐かしさを、昨日まで押さえ込んでいました。
「辞めてからも、そして別の職場にうつったと風の便りで聞くことがあったりしても、彼女、あなたのことを本当に心配していたの。よく会話にも出てくるのよ、今でも。そしたら、たまたまここで会えて・・・。あなたに会ったことを伝えたら、彼女、本当に喜んでた。『元気そうに働いているわよ、苗字がかわっているみたいだから彼女結婚したみたいよ』と伝えたら、よかった、本当によろしく伝えてねと伝言を頼まれてたのよ。それを伝えなきゃ伝えなきゃとこの間からずっと思ってて。よかった、今日やっと伝えられて。」と、昨日外来で声をかけられたのでした。
渦巻きのようにわきあがる久しぶりに懐かしい方々の名前や顔。その看護師さんを通してあのひとの華やかな笑顔もまた、私の中で川清水が沸くようによみがえりました。
忘れてはいないけれど遠い記憶となってしまったことも、一昔を数えると淡い幕を帯びて思い出されるものです。痛くて触れることの出来なかった傷もまた、かさぶたの存在すらわからなくなるほどに癒えることもある。時間とはなんと有効な軟膏でしょうか。
「・・・元気でやっていると伝えてください。そしてまた、お会いできることがあればお会いしたいですとお伝えください」と近況をそえ、手紙を託しました。
今お会いできたら、私はいったいどんな話をするんだろう。思い出話だけでなく、懐に逃げ込むばかりでもなく、今度はもう少しオトナの話ができそうな、そんな気がするのですが。
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